2016/10/09

故障発生:トリシティ・フロントフォークオイル漏れの巻

高校体育の剣道で、「観見の目付」という心得を教わりました
出典は剣豪・宮本武蔵が著したとされる「五輪書」だったと記憶しています
担当の教諭は確か、

・「観」は心の感覚、「見」は眼の感覚
要は、広い場の雰囲気を察知する総合的な五感・六感と、絞り込まれた視野・視覚である

・こと兵法における「目付(Observation)」、
およびそれによる「気づき(Awareness)」では、
心の感覚による察知が特に重要であり、
視覚を主軸とした観察はそれを補助する一手段と考えるべきである
距離の遠近に関わらず、身の周りで起こる事を具に感じ取らねばならない
敵の刀の振られ方さえ、視覚に頼らず察知できればまさに最良と言える
研鑽を積み、工夫せよ

・この目付は、1対1、多数対多数、
あるいは頭数が非対称な状況であっても同様に有効である
戦況が込み入ると難しくはなるが、それでも視覚だけに頼ることは避け、
全身と心の感覚で以って場の雰囲気を掴むよう心がけねばならない
目付の精神についてよく吟味し、常にその姿勢を忘れず行動せよ

といった内容の説明をしていたように思います・・・微妙に、懐かしいねぇ・・・

これを我々、武士ではない現代人が日常生活に応用するならば、
「いつもと何かが違う、何かが変だ」という違和を感じ取る心を意識して磨き、
また実際に違和感を覚えたときは、それから目視を含めた各手段で、
詳細な確認をしていくという流れを大切にする・・・といった感じになるのかな?

・・・で、長々と前置きしておいて結局は何を言いたいのかというと、
我がトリシティのフロントフォークから、オイル漏れが発生していました



・気づいたきっかけ

もともとトリシティの左右フォーククランプ、
普通の二輪車で言うところのアンダーブラケットの直下には、
ダストシールが押し退けたと思しき泥やら煤やらが溜まりやすい傾向があります
1~2週間に1回の洗車の時は必ず点検して、軽く水を噴いて落としていました

が、ここ数回の洗車の最中、
「なーんか変な気がするけれど、具体的にどこが変なのかまでは言葉にできない」
という妙な感覚がありまして、とりあえず目視による点検を強化することにしたんです

数日様子を見て、気がつきました
右・前側フォークへ汚れが堆積するペースが、
他の3つのフォークに比べて異様に早い

・・・さらによく見てみると、
ここ数日は晴天下で乾燥した舗装路面しか走行していないにもかかわらず、
堆積物がわずかに湿っている

・・・・・・おもむろに右手から軍手を取り、
当該フォークの堆積物の下、インナーチューブに触れると、
うっすらと、しかし明らかに油の気が感じられる
一方で他のフォークではほとんど感じられない


[ ← FWD ]

オイルシールが傷ついてるな、これは・・・



・考えられる原因

その1
比較的最近のハプニングを強いて挙げるなら立ちゴケをやらかしたことだけど、
この時倒れた方向は左側で、しかもカジバのVブーストでソフトランディングに成功、
引き起こしもスムーズに成功、何より発生日が本年4月初旬で、すでに半年前の話
今頃になって後遺症が出るのか・・・?
それも右フォークのオイルシールに・・・?

その2
じゃあ、特にブーツやチップガードを備えないインナーチューブに、
何か硬い物が当たって傷が付き、
その上をシールが往復して破損した、という線はどうだろう
当該フォークは前側だし、あり得ない話ではない・・・が、
手鏡と懐中電灯を使って目視した、および素手で直接触れてみた限りでは、
特に傷もササクレも無し

その3
製造過程でのミスでインストール時にシールが傷ついた、
あるいはもともと不良品のシールが組み付けられたフォークがあり、
それを割り当てられた個体がたまたま出荷時の試験をパスしてしまい、
総行6000kmに達した時点で症状が表面化した・・・という説は、どうだろうか

「トリシティ フロントフォーク オイル漏れ」
・・・それらしきクエリでの検索は一通り試したものの、
ウェブ上には類似の症状を経験したユーザーからの報告は無い模様
さらに症状が出ているフォークは4本中、右前方の1本のみ
設計そのものの不備や、製造ロット単位で発生している問題では無さそうだ

仮に3番目の説が正しかったとしても、
おそらくはこの子、我が家に嫁いできた1個体が、
固有で抱えていた原因によるマイナートラブルのような気がする
千台・万台の単位で量産された、複雑な機械装置にはありがちな話、
というか、どんなに努力しても数台単位での発生は避けられないことだね
トリシティの場合は、ただでさえ通常のスクーターよりも部品点数が多い、
つまりはトラブルを起こす因子が多いわけだから、なおさら品質管理が難しいだろうし

そんな稀な子が偶然、自分のところにやってきたというのは、
確率的には運がいいのか、悪いのか・・・
もっとも、これはこれで「雑談の種が増えたよヤッター!」とか、
「ブログのネタにできるぞヒャッハー!」くらいに考える前向きなマインドを持っていないと、
ひとつのメカモノと永く付き合うのは、なかなか難しいよ・・・
前向きじゃなくてただのバカだぁ? バカでなければバイクなんて乗りませんよ

・・・というか、まだ3番目の説がトゥルーだと断定できたわけじゃないってのな
ここは専門家の意見を仰ぐしかあるまいよ



・対策

購入した販売店に診せて修理してもらう
これ以外に何があるというのだ
ちなみに連絡済み、連休明けに入庫の予定

いや、工具類は計測系含めて一通り持ってるから自分でやる手もあるけど、
肝心のサービスマニュアルを持ってないからなぁ
フォークオイルの交換ならともかく、
シール打ち替えやそれを含むオーバーホールとなるとそんなに経験が無いし、
上記のとおり、まだ原因を特定できてもいないわけで

ここは一度、プロにお願いするほうが無難だと思う
ヤマハのほうにも連絡が届くだろうしね

問題はこの子をどうやって店まで連れていくか

漏れてるといってもまだ「インナーチューブを触るとうっすら」というレベルで、
アウターチューブ、延いてはブレーキ周りまではまったく垂れてきていないので、
一応、注意すれば自走は十分可能
後述するけど、前側フォーク内のオイルは実質的にただの潤滑油なので、
ダンパーの機能に問題が出る心配は無し

・・・なんだけど、いくら修理のためとはいえ、
天下の往来で故障・整備不良車を走らせるのは気が引けるんだよね・・・
かといって、押して歩くにはだいぶ遠いし、
トランポ呼ぶのも大袈裟な気がするし・・・
・・・まぁ、そこはちょいと目を瞑ってもらうとしよう・・・

シール打ち替えとなったら、必然的にオイルも交換となるだろうなぁ
2年保証の期間内だから、故障フォークに関する費用はメーカー持ちとなるだろうけど、
それとは別途で工賃を払って、他の3本についてもオイル交換してもらおうかな・・・
あーでも、連絡した時にこの旨を伝えてなかったな
当日相談してみて、作業時間が取れるようならお願いするか・・・
ついでに早めのエンジンオイル交換と、冷却水、ブレーキフルードの状態確認も・・・
・・・やっぱり連絡の時点できちんと相談しておくべきだった



・その他

実はトリシティの4本のフロントフォークのうち、
緩衝・減衰機能を持つのは後側の2本だけだったりします
スプリングとダンパーピストンは後側フォークにしか入っておらず、
前側内はガランドウで機能的にはただのガイド、純然たる剛性確保のための部品です

原価率の圧縮や売価引き下げを強く求められたバイクだと、
「スプリングは両側装備だけどダンパーは片側フォークのみ装備」
「片側はスプリングのみ装備、もう片側はダンパーのみ装備」
というモデルがたまにあったりする、あるいはあったりしたんですが、
スプリングとダンパーの両方を完全に片側にまとめた形のテレスコピックフォークは、
少なくとも現代のバイクとしては珍しい気がします
トリシティのものは、そのフォーク1対を2組使って、
左右それぞれの前輪軸を個別に支える変則型ですけどね

だったら純正部品流用で、前側にもスプリングとダンパーを入れたらもっと踏ん張りが・・・
あるいはダンパーピストンだけでも両側に入れたら・・・
とは、すでに多くの方がお考えでしょうが、一筋縄ではいかないでしょう
インナーチューブの部品番号と名称が前後で違う点が、まず気になります
前側チューブ内部の構造が、後側チューブとは異なっている恐れがあります
そのあたりの問題をなんとかできたとして、
前者は高荷重時の底突き耐性こそ高まりますが、細かな衝撃をスムーズにいなせず、
あまり快適に乗れたものではないでしょうし、タイヤにも負担がかかります
後者はピストン本体とインナーチューブ下部をよく調べなければなんとも言えませんが、
おそらくは伸側減衰力が過大となってしまい、
例えば強いブレーキからの再加速や、大バンク角旋回からの立ち上がりで、
フロントが顕著に荷重抜けを起こすようになるのではないかと思います

もう1点

現在市販されている125cc未満の車種に装着された、
正立・オイルダンパー式テレスコピックフォークの多くは、
スプリングとダンパーピストンがインナーチューブ内に配置、
かつダンパーピストンの下端がアウターチューブ底部にボルトで固定される一方、
インナーチューブ先端と、アウターチューブ内のスライドメタル(軸受の一種)が省略され、
インナーとアウターが直接摺動する構造となっています
いわゆる「チェリアーニ式」テレスコピックサスペンションです
(参考:Wikipedia " Officina Meccanica Ceriani ")

これが250cc級以上の車種の正立フォークとなると、
スプリングとダンパーの配置はそのままに、
両チューブにスライドメタルを追加した構造が主流となります
オリジナルのチェリアーニ式と比較すると、
アウターチューブの大径化やオーバーホール間隔の短縮、
各メタルの交換を怠るとガタつきやオイル漏れを誘発する、といったデメリットがある一方で、
インナーとアウターの馴染み摩耗抑止によるアッセンブリー全体の長寿命化や、
摺動抵抗の低減による、よりスムーズな作動といったメリットが見込めます

トリシティのフォークは4本とも、各スライドメタルが省略されていません
インナーチューブ先端、アウターチューブ内の両方に、スライドメタルが奢られています
さりげなく、見えないところにきっちりコストかけてるなぁ・・・
ユーザー側もユーザー側で、きっちりメンテしないといけない造りだな、これ・・・



その後の流れ
経過報告:トリシティ・フロントフォークオイル漏れの巻

※追記
2016年10月10日・11日・13日・14日
逐次加筆改訂
2016年10月19日
次投稿へのリンクを追加
2016年10月26日
一部改訂