【独自研究】廉価帯テレスコピックフロントフォークに纏わるよもやま ~安物フォークの平行出しの是非~ Ver.0.3

以前、アクスル部にシムを噛ませる形でスーパーカブのフロントフォークの平行出しをしようというネタを取り扱ったことがある。

今、書いた当人が見直すといろいろ修正したい部分がある…というかいっそ全部書き直したほうがよさそうなのだが、そのための1歩として、廉価帯のテレスコピックフォークに纏わる雑な知識や考察をひととおり書き出してみようというのが、このページの趣旨である。

あのネタに対しては「たかがカブの安物フォークに、手の込んだ平行出しなどして効果があるのか?」というツッコミもそれなりにあったので、それらに対する回答にもなろう。


・テレスコピックフォークは左右筒間の平行が命なんだ

結論から言ってしまえば、シムを用いたカブフォークの平行出しの効果は、「理屈の上ではごくささやかなものであり、現実には効果を体感できない個体もある」ということになる。

大まかな理由としては「平行出しのための機能を持たない一方で、平行が狂っていてもそれなりに動作する構造になっていると考えられる」ことと、「各部公差の差し引きや締め付けトルク次第で最初から平行に近い状態となっている個体もある」ことが挙げられる。

そもそもなぜ「フォークの平行」という要素にこんなに拘るのかと言えば、それがテレスコ式フォークをスムーズにストロークさせるための肝だからだ。

テレスコピックフォークのシリンダーは、上端付近はブリッジ・ブラケット、下端はホイールハブを挟む形でアクスルシャフトによって拘束され、左右の位置関係を固定されている。
シリンダー間の平行が出ていて、上端下端の計4点が正面視で長方形となっている場合は、上端下端とも左右の間隔が同じままでも問題なくストロークする。

しかし平行が出ておらず、4点が正面視で台形となっている場合、ストロークに伴って上端下端いずれかの左右間隔が伸縮する必要、あるいはブラケットクランプ部の角度を変化させる必要が出てくる。
当然ながら位置関係は物理的に固定されているので、そのままではフォークシリンダーを曲げる力が生じてしまい、作動抵抗の大幅な増加や異常摩耗の誘発へと繋がるのだ。


以上の要点から、テレスコ式フロントフォークの滑らかな作動には、
1、平行を出すため、フォーク上端および下端の間隔を微調整できる機能
2、平行が出ていなくても、作動に伴う各部の歪みを吸収できる機能
のうち、いずれかが不可欠なのだ。


このうちの1、上端および下端の間隔を微調整できる機能としては、「アクスルホルダー式」のフロントアクスル支持が一般的だ。

アクスルホルダー式とはなんだ?

フォーク最下部のフロントアクスルシャフト貫通部をただの穴とせず、ボルト固定のクランプないし2ピース構造とし、そこに挟み込む形でアクスルシャフトを支持する。
ただの貫通穴ならば、アクスルナット締め付けトルクのわずかな狂いやハブベアリング・ディスタンスカラーの公差・経年次第で、貫通部の左右間隔が組み立て毎に一定とならず平行が狂ってしまうが、ホルダー支持であれば固定ボルトを緩めてシャフトの支持位置を動かすことで、左右間隔を微調整して平行化できる。

片側フォークのみにホルダーが設けられている例と、両側ともホルダーとなっている例がある。
両側ホルダーの車種であっても、フォーク平行調整に用いるのはどちらか片方だけの場合が多い。
シングルディスクブレーキ、あるいはシングルドラムブレーキの車種であれば、ローターないしパネルの反対側が調整用のホルダーとなっている。

・アクスルホルダー式の欠点と代替方式

ここまで読んでみて「うちの車にはアクスルホルダーが付いてないなぁ」と気が付いた方がいらっしゃるかもしれない。
実は世を走るバイクのうち、アクスルホルダーを採用していないものの割合は決して少なくない。
というより、車種基準ならまだしも、台数基準であれば未採用のバイクが圧倒的に多数なのだ。

アクスルホルダー式は自ずと部品数と製造工程が増えるため、コスト抑制には不利となる。
また整備調整が完全であればスムーズにストロークする一方で、不完全だと一気に動きが渋くなってしまう。
突然のトラブルに伴う応急修理や整備士でないユーザーのDIYなども想定すると、単純な作動性能ではやや劣る代わりに、厳密な調整をせずに組んでもそれなりに動作し、かつ安価に作れるという構成にも需要が生じる。


上記のニーズを満たすのが、次に紹介する「柔支持ブラケット式」である。
造りとしては2、作動に伴う各部の歪みを吸収できる機能にあたる。

・命名:柔支持ブラケット式

なお、命名はTriKaiの勝手です。
正式な名称をご存じの方はぜひご教示ください。

フォークチューブを支持しているブリッジ・ブラケット、そのクランプ部の締結剛性を意図的に落とすことで、ストロークに伴う支持部間の変距や角度の歪みを許容する。

剛性を落とすといっても単にユルユルにしてしまうと操縦安定性や乗り心地に支障するため、フォーク全体での剛性は確保しつつ、なるべく寸法の狂いに対してのみ変形するよう工夫が凝らされているが、それでもアクスルホルダー式フォークに比べると剛性の面で劣る。
また作動抵抗と偏摩耗の面でも、剛体の弾性変形を利用する以上、調整が完璧な状態のアクスルホルダー式より増加することが避けられない。

しかし中低速に的を絞った仕様であれば、これでも実用上は何ら問題のない性能が得られる。
部品点数と製造工程を減らせるため原価を抑制できるのはもちろん、販売後の整備でも大まかな指定締め付けトルクを守って組みさえすれば、それだけで狙い通りの性能を発揮できる。

アクスルホルダー式が「整備役の腕によって0点にも100点にもなる」構造だとするなら、柔支持式は「マニュアル通りならば誰が組んでも必ず80点になる」構造だと言えるだろう。

原付二種クラスまでの旧式ビジネスバイクや小型スクーター、実用的な廉価帯の軽二輪などでは古くからの定番と言っていい方式なのだが、最近ではコストダウンの要求と、性能低下を補う技術の発展によって、そこそこスポーティーな性格付けをされた250ccから400cc級の車種にも採用例が見られるようになった。

以下に主要な3つのタイプをまとめる。

-スクーター型
トップブリッジを持たず、アンダーブラケットのみでフォークを支持する、スクーターに広く普及しているタイプ。
正式にはユニットステア構造というらしい。

CT125を除くJA07型以降のスーパーカブ・クロスカブシリーズや、それより前に登場した100EX~Wave125iなどのタイカブ系もコレ。特にJA45型クロスカブ(2代目)はブラケット周辺が露出しているため、造りがわかりやすい。

アクスル平行方向にクランプを開こうとする力に対し、固定ボルトがほぼ直角に配置されている。
ボルト座面が摺動する形で、通し穴とボルトのクリアランスの範囲内でクランプがわずかに開く。
このためフォークチューブは前後方向に強く固定される一方で、左右方向の傾きにはほんの少しだけ自由度がある
チューブ上端、ブラケットが咥える部分には凹型の噛合部が設けられ、これに固定ボルトが引っかかり、チューブの抜け止めとなっている。

チューブのブラケットへの正面視取り付け角度をストローク量に応じて変化させてやれば、アクスル部の間隔が一定のままでもフォークに無理な力が生じないわけである。

-スポーツバイク型
原付二種であればグロム、モンキー125、CT125ハンターカブ、GSX-S125/R125あたり。
軽二輪以上の車種では初代YZR-R25/R3、初代MT-25/03、XMAXシリーズ、ニンジャ250シリーズ、二代目ニンジャ400、ジクサー150など、それなりに「走れる」車種にも採用されるようになったタイプ。
25/03シリーズは2代目で倒立フォーク化された際にアクスルホルダー式へと変更された。
同じジクサーでも250のほうはアクスルホルダー式を奢っており、上位下位できっちり差別化が図られているのがわかる。

アンダーブラケットとトップブリッジの両方を持つが、これらのクランプをスクーター型同様に固定ボルトの向きによって、あるいはブラケット・ブリッジ自体の剛性を調整することで、柔支持としている。
両方の支持剛性をバランスさせる場合と、どちらか片方の支持剛性を低めにする場合がある。

フォーク全体の剛性はスクーター型よりも高くできるため、整備性・コスト抑制とカッチリとしたシャシー造りをある程度並立させることが可能。

ちなみに、もしクランプの固定ボルトがアクスルと平行に配置されていた場合、アクスル平行方向の力に対してはボルト座面がクランプを押さえつける形となるためほとんど開かなくなるが、今度はアクスル直角方向、特にブレーキング時の荷重でクランプが開くようになってしまう。
このため柔支持でない仕様のクランプは、直角-平行間でボルトを斜めに配置して中間的な特性とするか、あるいは変形が少ない肉厚成形品や鍛造品などのブリッジ・ブラケットを用いている場合が多い。
ボルトの角度によって前後左右の支持剛性のバランスを取ることで、ハンドリングの味付けをすることも可能なようだ。

-ビジネスバイク型
ホンダの車種であればベンリィCD系、郵政カブMD系、CT110などが採用していたタイプで、廉価なテレスコフォークとして古典的な構造。

クランプを持たないプレス成形の板に通し穴を開けたものをトップブリッジとし、クランプの支持剛性をわずかに落としたアンダーブラケットと組み合わせる。
アッパー側チューブのトップキャップにはナットが溶接されていて、トップブリッジはその上に挟み込まれる形でボルトで締結される。
ボルト座面が摺動することで、通し穴とボルトのクリアランス分だけ、支持部がラジアル方向にわずかに動く。

構造的にはスクーター型のアッパー側チューブをステム上まで伸ばし、その先端に補強版を取り付けたようなものである。
捩り・曲げ剛性と走行性能はスクーター型に近いが、重積載時の耐荷重性をより高めつつ、コストは抑えることができる。
かつての実用車、その後のビジネスバイクにとっては好都合だったわけだ。

・柔支持式の欠点とシムを使った調整の意義

最初に触れた柔支持式のアクスル部にシムを噛ませるカスタムは、要するに、アクスルホルダー式の考え方をホルダーを持たないフォークで再現しようという試みである。

取り付け角度に自由度があるといってもクランプは弾性によって常に閉じようとするため、フォークチューブにはわずかながらも曲げる力が働き、アウターチューブとインナーチューブの摺動部の引きずり抵抗が増加する。
ここでシムによってフォーク最下部左右の間隔を調整し、あらかじめ平行を出してやれば、クランプ絡みの力をキャンセルして、作動抵抗をほんの少し減らすことができる。
これが特に微小な荷重変化、具体的にはサイドスタンド状態から車体を起こした瞬間や、コンクリート舗装の継ぎ目を通り抜ける時といった状況で、サスの素早くスムーズな作動に効いてくるのである。


2020/10/17 Ver.0.1 暫定版を投稿
2020/10/20 Ver.0.2 細部を加筆修正
2021/11/23 Ver.0.3 アクスルホルダーに関する間違った記述をごっそり改定