2015/10/09

冬支度:トリシティ・タイヤ考の巻

※追記・2016年12月2日
この投稿は度重なる追記の結果、
構成がだいぶ冗長なものとなっています

全文をご覧になると時間がかかりますので、下記の投稿、
雪道のような低摩擦係数の路面に近い軟弱な泥地の上で、
実際に転倒した際の状況写真などを、
先に参照していただけると幸いです
要点についてはあちらのほうが簡潔だと思います

失敗事例・トリシティ、滑りゴケの巻
https://trikai.blogspot.com/2016/12/blog-post.html



最近は「雪道」「スノータイヤ」というクエリから、当ブログへ辿り着く方が多いようだ
こんな辺境によくお越しなさった、とりあえずお茶をどうぞ 旦~~

「三輪=安定性が高い」というイメージが先行している面があるのだろう
それは間違ってはいないんだけど、しかし雪道や凍結路面への耐性に関しては、
トリシティは他の二輪車と比べて特に優れているわけではない
むしろ不利な要素をけっこう持っていたりする



Web上ではブロックタイヤやスノータイヤを履かせている例を散見するけど、
ひと通り調べた限りでは荷重指数や速度記号が純正装着品を下回っているものが多い

大都市の動脈の事情となると疎いのだが、
淑やかに走っている限りは3ケタが要求される場面はまず無いだろう
耐荷重性にしても、タンデム時や積載時を考慮した上での選定なので当然余裕はあるわけで、
たとえば普及スクーター向けの10インチホイール用スノータイヤでも、
純正品と比べてやや軽荷重向け・低速向けのスペックであることは珍しくない

Webで見かけるトリシティで気になるのは、特に後輪に対して、
耐荷重能力に80kg近い差があるタイヤを履かせているケースである
 一例として、純正リアタイヤが荷重指数64=最大荷重280kgのところを、
荷重指数51=最大荷重195kgのブロックタイヤを装着する、など
さすがにこれだけ耐荷重能力が違うと、安全性・耐久性の面では好ましくない



高校数学や物理ですらパンクするレベルのポンコツ頭なので、
以下、いろいろ間違えている部分があるかと思いますが・・・どうか笑ってやってください


一般に、面に置かれた物体への荷重=垂直抗力が増せば、それに比例して摩擦力は増加する
しかし弾性や摩耗性を持ち、路面を転がるゴムタイヤの場合、そう話は単純ではない
ざっくり言うと、荷重を2倍に増やしても、摩擦力が2倍にならない
そのタイヤの耐荷重限界を十分下回る領域であれば、摩擦力は荷重の増加にほぼ比例するが、
荷重が限界に近づくにつれて、摩擦力の伸びは鈍くなっていく
縦軸が摩擦力、横軸が荷重、横軸の終端が耐荷重限界の線グラフに表すと、
原点からしばらく右上がりに描かれていた直線が、中盤から徐々に曲線へと変化していく
荷重限界に近い状態に置かれたタイヤの摩擦力は、非線形特性となるわけだ
ついでに言えばタイヤだけでなく、路面の耐荷重性も話に絡んでくる

実際には、荷重指数で示された最大荷重にはさらに安全余裕が取られているはずで、
最大荷重に達したからといって、即座に破裂したりグリップを完全に失ったりは、当然しない
が、本来よりも耐荷重能力が低いタイヤに変更している場合、
大きな荷重をかけた際に、摩擦力が非線形領域に入りやすくはなる



トリシティのユーザー向け取り扱い説明書によれば、
車両総重量=走行可能かつ2名乗車・メットイン5kg・フック1kgの完全積載状態での重量は262kg、
前後分布荷重比は約4:6、後輪の分布荷重は159kg
・・・の、はずなんだけど、どうもヤマハは荷物の積載を勘定に入れていないようで、
さらにライダー1名の想定体重を 55kg としているらしい
ちなみに本邦の成人女性の平均体重はおよそ50kgちょい、成人男性のそれは約65kg強だという
・・・まあ、このあたりはとりあえず脇に置いておこう・・・
純正品の場合、平坦地で停止中のリアタイヤ荷重余裕は40%と少しということになる
1名乗車でメットインがカラであれば、余裕が増す
一方で加速中は分布荷重が後輪へと移動するため、余裕は減る
登坂中も同様だけど、こちらは同時に垂直抗力の減少も生じるため、少しややこしい

これが先ほど例として挙げた荷重指数51のリアタイヤの場合、
前後タイヤ外径の変化による分布荷重の変動を度外視すると、
車両総重量での荷重余裕は20%を割り込む(159/195 = 0.815…)
1名乗車であればマシになるはずだけど、
この状態で元気よく発進させたり、急な坂道を登らせたりすると・・・?
あるいは、それらの最中に急旋回させたりすると・・・?



あと、耐荷重能力が低い、つまりは強度に劣るタイヤを履かせると、
路面からの衝撃の多くをタイヤ側が変形によって吸収してしまい、
入力が伝わらずにサスペンションが動かなくなる傾向もあるよ
タイヤに過負荷がかかるのは言わずもがな



あまりにも純正品と特性が異なるタイヤを履かせていると、
過失扱いなら整備不良車、故意扱いなら不正改造車として、
警告・検挙されても文句は言えない

まあ、改造されたモンキーの多くがブローバイガス還元装置を外されているような現状でも、
実際に反則判定をもらったという話は聞かないから、滅多に無いことだろうが・・・
還元装置に関しては、警察が本気で取り締まったら阿鼻叫喚の地獄絵図だろうな・・・
確かに還元装置が無いほうがキャブレターのセッティングはしやすいけど、
環境対策という主作用以外にも、エンジンオイルのコンディション維持や、
単気筒やV型2気筒、360度or270度位相クランク採用の直列2気筒エンジンの場合であれば、
クランクケースの内圧を適正に保ってポンピングロスを減らすという副次的な作用もあるんで、
パワーを追求する上で一概に悪だとは言い切れないんだけどな・・・

・・・話をタイヤに戻す

もし走行中に足回りが突然逝ったら、
バイクどころかライダー本人や通りすがりの方の人生まで終わりかねない
タイヤ選びはもう少し慎重におこなうべきだと思う



しかしタイヤの選択肢そのものが少ないのも事実で、ここがトリシティの欠点のひとつである

一応IRC製のスノータイヤには、純正に近い荷重指数かつリムに適合するものがあるようだが、
やはり純正品と完全に同じサイズではない
・・・というのは過去の話
互換サイズのスノータイヤ・SN26、IRCが作ってくれたぞ!
詳しくは最下部のリンクへどうぞ

それどころか、ノーマルタイヤでさえ互換サイズが少ない
前輪は幅90mmかつ偏平率80%を満たすものが無い
後輪はいくらか同サイズ・同等仕様のものがあるが、大抵は大型スクーターのフロント用である
指定回転方向を逆向きにして、フロント用をリアに取り付けるという最終手段もあるにはあるが・・・
互換品が皆無な状況は改善されました
こちらも詳しくは最下部のリンクへどうぞ



重くて足つきが良くないのも雪道では減点個所となる

チェーンを巻いたカブ型の実用車やビジネススクーター、小柄な10インチ車であれば、
圧雪路面や氷結路面でも、2輪と2足で安定させながらじりじりと進行できる場合がある
新雪でも底打ちしない程度の積り具合であればなんとかなることが多い

トリシティは身長170cm程度のライダーでも、両足をつけるとなるとかかとがそれなりに浮いてしまう
雪に突っ込んだときに前輪にかかる抵抗が多いこともあって、牛歩走法が難しいのだ

片足をフロアに乗せたままなら出した足はベタづきとなるので、
ライダーがスノーブーツを履くなりすればいくらか安心感が増す
スクーターとしてはシートが高いが、それでも一般的なロードスポーツ車とほぼ同じであり、
多くのオフ車よりはよく足がつくのも事実ではある



後は駆動・変速装置の問題だな・・・

トリシティを含むスクーターでは一般的な、
乾式・遠心式自動クラッチ+トルクカム付き遠心式・Vベルト式無段変速機は、

・クランクシャフト―路面間の駆動力伝達が完全、
つまりクラッチが完全に接続されていて、
かつタイヤと路面の間に十分な摩擦が発生している状態でなければ、
トルクカムがうまく機能せず、ローレシオ側への変速と維持が有効におこなわれない
滑りやすい路面の上で、まずクラッチを繋ごうと単純にエンジン回転数を上げると、
クラッチ接続の直前でタイヤが空転に陥りやすい
空転させずにクラッチ接続速度、またそれ以上まで加速しようとすれば、
細やかなスロットルワーク・リアのブレーキワークが必要になる

・クラッチ接続速度に満たない徐行状態では、
駆動力の調整はスロットル開度と半クラッチ、リアブレーキ制動力の釣り合い頼みとなる
しかし乾式クラッチは湿式と比較して、
半クラッチ状態を多用せざるを得ない状況には向いていない

・クラッチ接続+エンジン回転数を一定に保った状態で、
後輪が空転を始める=変速機にかかっているエンジントルクが抜けると、
「速度が上がった」と変速機が「勘違い」してしまい、
そのままどんどんハイレシオ側に変速してしまう
このためライダーが空転の度合いを把握しにくいうえに、
再度グリップ状態に復帰させる際に必要なスロットルの戻し量が多い

・上記3項と関連して、有段変速車の2速・1速に相当する変速比・駆動力の維持が厳しい
一応、スロットルを開けつつ後輪ブレーキを使うことで強制的にトルクカムを作用させる、
あるいはその応用で、スロットルをさほど戻さず後輪ブレーキによって空転を収める手法もあるが、
いずれもクラッチないしブレーキに負担を強いるうえに、熱として損失する出力も増える

・・・といった特性を持っており、根本的に低摩擦係数の路面とは相性が悪い

これがカブのような、
変速時の強制開放&バックトルク発生時の強制接続機構付き湿式・遠心式自動クラッチ
+足踏み選択式・常時噛合ギア式有段変速機、という組み合わせであれば、
変速比が固定されるため、空転の状態が即座にエンジン回転数へと反映される、
1速でどうしても空転するなら2速発進を試行できる、
動き出したら1速へ落とすことで、徐行状態でもクラッチへの負荷を抑えられる、など、
低摩擦係数の路面の上では、Vベルト式CVTに対していくらか有利な点があるのだ



降雪下を含めた全天候性を重視するなら、トリシティを選ぶ優先度はそれほど高くない
トリシティがその全力を発揮できるのは晴れから雨、曲がりなりにも舗装された道の上である
逆に言えば、雨の中で荒れ気味のアスファルトを走るような場面では二輪車にライバルはいない
降雪が日常的な地域であれば、普段使いにはやはり四輪車のほうが適していると思う
もちろん、趣味の道具としてお考えならば、猛烈にプッシュするところなのだけれど

近々、実際の足つきについて写真で解説してみようかな
だいぶ遅くなりましたか、解説してみました
トリシティの足着き性について
とりあえずお茶、もう一杯いかが? 旦~~

補足事項まとめ
トリシティの耐雪性と、当ブログのレビュー方針

冬用ではないけれど、トリシティ向けタイヤ新発売の報
祝・トリシティ純正互換タイヤ発売の巻(IRC:モビシティ)

IRCが専用スノータイヤを作ってくれました
祝・トリシティシリーズ向けスノータイヤ発売(IRC:SN26)



※2015年10月14日
足つきについて追記
2016年8月31日
関連投稿へのリンクを追加
2016年9月17日
関連投稿へのリンクを追加
2016年9月20日・22日・23日・24日
逐次加筆・訂正
2016年10月3日
一部加筆
2016年10月6日
一部改訂
2016年10月16日
一部追記
2016年10月23日
一部追記
2016年11月20日
関連投稿へのリンクを追加
2016年12月2日
関連投稿へのリンクを追加